SAFeのリーン-アジャイルの原則

システムは管理しなければならない。それ自体が自動的に管理してはくれない。ほうっておくと、コンポーネントは自分勝手で競争しあう独立した利益センターとなり、結果としてシステムが崩壊する。解決の鍵は、組織の目標に向けてコンポーネント間で協力することである。

─W・エドワーズ・デミング

第2原則─システム思考を適用する

システム思考の世界第一人者であるデミングは、製造システム、社会システム、管理システム、さらには政治システムまで、あらゆる種類のシステムを構築し配置する人々が直面する問題や課題について、広い視野でとらえることを常に重視している。そこで得た1つの重要な結論は、作業場で見つかる問題が、作業者が作業をするのに使用しているシステム内で起きる一連の複雑な相互作用が原因で発生しているということである。システムを広い視野でとらえることは、システムの謎を解き明かし、開発プロセスや、システムの目的であるプロダクトやサービスの品質を向上するための鍵となる。

ソリューションはシステムである

SAFeの目的は、システム構築者が「持続可能な最短のリードタイムと、人や社会にとっての最善の品質と価値」を達成する手助けをすることである。そのため、主に対象のシステムに焦点が絞られる。あの大きくてクールな新しいやつである。このとき、「システムは管理しなければならない」ということを理解していると、いくつかの非常に重要な見識が得られる。

  • システム構築者は、システムの境界、システムが何であるか、取り巻く環境やシステム群とどのように相互作用するか、さらには、システムのコンポーネントどうしがどのように相互作用してシステムの大きな目的を達成し顧客のニーズを満たすかを、明確に理解していなければならない。
  • コンポーネントを最適化してもシステムは最適化されない。そうではなく、システムを全体として最適化しなければならない。システム構築者は、他の要素でも必要とされるコンピュータの処理能力、メモリ、電力といったリソースを、コンポーネントが自分勝手に浪費しないよう気を配る必要がある。
  • システムをシステムとして正常に動作させるには、システムの意図された振る舞いや、アーキテクチャーやシステムの非機能の振る舞いの意図を、実装前に理解しておかなければならない。
  • システムの価値は相互接続を通じて生み出される。そのインタフェースとそれにより生まれる依存関係は、最終的な価値を提供するための非常に重要な要素である。
  • システムは、そのもっとも遅い統合ポイントより速い速度では進化できない。システム全体の統合と評価が速ければ速いほど、システムの実際の知識が速く増大する。

システムを構築している企業もシステムである

システム思考を適用すると、「システムを構築している企業もシステムである」という重要な結論にも行き付く。企業の人や管理者、職能部門や管理部門が、システムを構築するシステムの構成要素である。

システム思考という同じ訓戒がここにも適用される。そうでなければ、開発システムや本番システムのコンポーネントは自分勝手に動き、価値納品や経済的利益を妨げることになるからである。このことから、さらにいくつかの重要なシステム思考の見識が得られる。

  • 価値は組織の境界をまたがって生みだされる。より早く価値を手に入れるには、機能ごとのなわばり意識をなくすか、価値納品を効果的に行うために使用できる仮想組織を作成する必要がある。
  • 複雑なシステムの構築は社会的活動である。最善のシステムを構築するための最善の方法を共同で実行できる環境を作成しなければならない。
  • サプライヤーと顧客は価値のストリームに不可欠である。信頼という長期的な基盤に基づいて、パートナーとして扱わなければならない。
  • リーダーは長期的な視点でものを見なければならない。今日の意思決定は将来の成果に影響する。インフラ、プラクティス、ツール、トレーニングなど、システム能力を使用できるようにするための投資は、将来の価値納品の基盤となり、品質や生産性の向上につながる。

システムを変えられるのは管理者だけである

デミングは次のような結論にも達している[1]。『誰もがすでに全力を尽くしている。問題はシステムにある』、『システムを変えられるのは管理者だけである』

ここから、最後の見識が得られる。つまり、システム思考を取り入れるには管理者に対する新しいアプローチも必要という点である。このアプローチでは、管理者が問題解決者であり、長期的な視点でシステムを見て、先を見越して障害を取り除く。このリーン思考の管理者/教育者の役割は以下のとおりである。

  • リーン、アジャイル、システム思考の価値と原則とプラクティスを示し、教える。
  • 機能ごとのなわばり意識とフローの障壁を取り除く。
  • サプライヤーや顧客との間に、効果的で長期的な関係を構築する。
  • 問題の解決や障害の排除を常に行う。
  • 根本原因解析と是正処置の手法を適用し、教える。
  • 内発的モチベーションを解き放ち(第8原則)、意思決定を分散する(第9原則)ことで、ナレッジワーカーに権限を委譲する。
  • チームと協力して、主要マイルストーンについて検討し、不十分な点を特定して対処する。

システム思考のこの3つの点を理解することで、リーダーやワーカーは、何をどのような理由で行っているかと、それが周りに対してどのような影響を及ぼすかを、本当の意味で理解することができる。そして、それによって企業がより有能になり、複雑な組織やソリューション開発の舵取りをうまく行えるようになり、結果として経済的成果が大きくなる。


さらに知りたい場合

[1] Deming, W. Edwards.The New Economics.MIT Press, 1994. (邦訳:デミング博士の新経営システム論―産業・行政・教育のために、NTT出版、1996)

Last update:11 May 2015