顧客

ボスは一人しかいない。顧客だ。彼は、会社の中の会長以下誰でも、彼のお金をよそのどこかで使ったというだけでクビにできる。─サム・ウォルトン、ウォルマート創業者

これまで以上に顧客に寄り添え。─スティーブ・ジョブズ

顧客の概要

どのソリューションでも、顧客が最終的なエコノミックバイヤーである。グローバルな競争が行われる世界において、社内外の顧客の要求はどんどん厳しくなっている。顧客には選択肢がある。より多くの価値をすぐに欲しがる。ソリューションがうまく動き、現在のニーズを解決してくれると期待している。また、ソリューションプロバイダがプロダクトやサービスの品質を継続的に向上することも期待している。

さらに、リーン-アジャイルなソリューション開発には顧客の関与が欠かせない。彼らは価値のストリームの一員である。プロセスと切り離すことができない。ソリューション/プロダクト管理やその他の主要利害関係者と頻繁かつ緊密に協力して働き、ソリューションの意図、ビジョン、開発の経済的枠組みを定める。ソリューション開発の定義と優先順位付けに強い影響力を持ち、ソリューション計画、デモ、プロセス改善に積極的に参加する。

詳細

顧客は、リーン-アジャイル開発の切り離せない一部であり、SAFeにおいて非常に重要な役割を果たす。顧客は価値のストリームの一員である。顧客がリーン-アジャイルの原則を支持し、ソリューションの定義、計画、デモ、進化に積極的、継続的に参加することは、成功するために不可欠である。

顧客は社内にいることがある(ビジネス部門に対してサプライチェーンアプリケーションを納品するIT部門の場合など)。あるいは、顧客は社外の人で、システム構築者がカスタムビルドしたものの購入者である場合もある(政府機関が商業システムや防衛システムを購入する場合など)。さらには、もっと離れた第三者、つまり、エコノミックバイヤーを大きく分類した一つの区分の場合もある。その場合、システム構築者は、一般的な場合の要求を集めて総合したものを理解し、幅広い市場のニーズを満たすソリューションを作成し、開発の多くでは(独立ソフトウェアベンダーがプロダクトスイートを販売する場合など)顧客の代理となる社内の人を用意しなければならない。

責任のまとめ

どの種類にあてはまる場合でも、顧客は、アジャイルなソリューション開発全体を通して継続的に関与しなければならない。自分自身または代理人が参加し、概して次のような責任を果たす。

顧客は価値のストリームの一員である

リーン-アジャイルの考え方は、開発組織を超えて価値のストリーム全体に広がるが、その中に顧客も含まれる。価値のストリームの種類によって、次のように相互作用のコンテキストが変わる。

1)社内ITの場合、社内顧客は運用の価値のストリームに含まれる(図1)。

図1.  社内顧客

たとえば、パートナー登録のワークフロー(運用の価値のストリーム)の責任を負うマーケティング部長などがこれに該当する。パートナーがこのワークフローの最終的なエンドユーザーであり顧客であるが、開発チームにとっては、マーケティング部長や価値のストリームを運用する人たちが顧客である。

2)社外エンドユーザー向けのソリューションを構築する場合、顧客はソリューションの直接のエコノミックバイヤーである(図2)。

図2.  社外顧客が直接のエコノミックバイヤーである場合

この場合、開発の価値のストリームと運用の価値のストリームは同じである。ソリューションは、直接販売または配置される最終プロダクトのこともあれば、システムのシステムのような大きいソリューションコンテキストに埋め込んで運用する必要があることもある。

顧客の関与がアジャイルに成功する原動力となる

リーン-アジャイル開発では、しっかりとした顧客の関与が必要になる。これは、以前のステージゲートモデルで想定されていたよりもずっと多い。しかし、関与の方法は、構築対象が汎用ソリューション(多数の顧客が使用できる、または多数の顧客に販売できるもの)であるか、カスタムビルドソリューション(個々の顧客向けに独自の仕様で構築するもの)であるかによって異なる。図3は、それぞれのケースで、直接/間接に顧客が関与する相対的レベルを示したものである。

図3.  汎用ソリューションおよびカスタムビルドソリューションにおける顧客の関与

汎用ソリューション

左側は、多数の消費者のニーズに対応しなければならないシステムを構築する場合である。一人の顧客を想定して市場全体の適切な代理人とすることはできない。この場合、プロダクトおよびソリューション管理が間接的な顧客の代理の役割を果たし、ソリューションコンテキストに関する権限を持つ。社外とのやり取りを促進し、顧客の声が届いていること、組織が新しい考えを常に検討していることを確認する。開発のスコープ、スケジュール、予算は、一般に、ソリューション構築者の判断で決定する。

ある特定の顧客が定期的な計画やデモのセッションに参加することは考えにくいため、やり取りは主に、要求ワークショップ、フォーカスグループ、使いやすさのテスト、革新会計、相手を限定したベータリリースなどを通じて行われる。ユーザー行動分析、測定、ビジネスインテリジェンスを適用してさまざまな仮説を検証すると、そのフィードバックを基にソリューションを進化させることができる。PI計画時には、社内や社外の利害関係者のグループが、ビジネス責任者(特定の価値のストリーム内での最終的な社内の顧客代理人)の役割を務める。

カスタムビルドソリューション

図3の右半分では、主に顧客がその「担当」である。これらの顧客は、ソリューションを定義し、自分自身が代表として参加する。プロダクトおよびソリューション管理は、顧客とやり取りし、日々の開発をサポートする。ただし、担当するのが顧客であるにしても、協調してスコープや優先順位を設定する方法を確立することが非常に重要である。これは、インクリメンタルな学習を促進するためにも、事実に合わせて行動方針を積極的に調整する態度を示すにも役立つ。

PI計画、ソリューションデモ、選択した一部の仕様ワークショップに積極的に参加することが必要である。これにより、要求や設計の想定事項の矛盾が見つかることも多いし、場合によっては契約に影響することもある。このプロセスを実施することで、顧客とソリューション構築者は、より協調的でインクリメンタルなアプローチへと向かう。

プログラムインクリメントの結果を完全に統合されたソリューションインクリメントとして顧客にデモすると、高い信頼が構築されるし(「このチームは実際に納品してくれる」)、このデモは顧客が現在の行動方針を経験に基づいて検証する機会にもなる。測定されたアジャイルチームの予測性とベロシティーに基づいて先を予想する能力は、大きく向上する。

アジャイルな契約のモデルに移行すると、従来型のシステム構築者と顧客の関係のWin-Loseの側面を緩和することができる。そのようなモデルの1つがSAFeの管理された投資のモデルである。このモデルでは、顧客は1つまたは2つのPIへの投資を確約し、その後、客観的な証拠とインクリメンタルな納品に基づいて、資金を調整する。これには、開始時にそれなりの信頼が必要だが、その後は、継続的に受け取る価値のフローに基づいて、インクリメンタルに信頼が構築される。


さらに知りたい場合

[1] Ward, Allen and Durward Sobek.Lean Product and Process Development.Lean Enterprise Institute, 2014. (邦訳:トヨタが実践する価値創造の確かな進め方 リーン製品開発方式、日刊工業新聞社、2014)

Last update:26 October 2015