リーン-アジャイルの考え方

すべてリーン-アジャイルの考え方から始まる。

─SAFeの著者

リーン-アジャイルの考え方の概要

SAFeは、リーンとシステム思考、プロダクト開発フロー、アジャイル開発など、最新のシステム/ソフトウェアエンジニアリングにおける新しいいくつかのパラダイムをベースとしている。チームのレベルを見ると分かるように、アジャイルでは、これまでにないレベルの生産性や品質や愛着を達成するための権限をチームに与え、それを約束させるのに必要なツールを用意している。しかし、企業全体にまたがる規模のリーン-アジャイルな開発をサポートするには、より広く深いリーン-アジャイルの考え方が必要である。

リーンに考える:リーンの考え方の多くは、SAFeの「リーンの家」のアイコンに表されている。これは6つの主要要素から構成される。「屋根」は価値を納品するという目標を表し、「柱」は、人と文化への敬意、フロー、革新、容赦ない改善によってその目標をサポートする。リーンなリーダーシップは、ほかのすべてを支える土台となる。

アジャイルを受け入れる:さらに、SAFeはもっぱら、アジャイルチームとそのリーダーのスキル、才能、能力を基礎として構築されている。アジャイルな手法とは何かという唯一の定義は存在しないが、アジャイル宣言では、アジャイルな手法をメインストリーム開発に取り入れるのに役立つ、統一された価値体系を提供している。

これらが一緒になってリーン-アジャイルの考え方が作られる。これは、新しい管理手法と文化の改善の不可欠な要素であり、転換を成功させるのに必要なリーダーシップを提供するものであり、個人とビジネスの両方が目標を達成するのに役立つ。

詳細

SAFeのリーンの家

もともとはリーン生産方式[1]から派生したものだが、ソフトウェア/プロダクト/システム開発に適用されるリーン思考の原則とプラクティスは、今は深く広いものになっている。たとえば、Ward[2]、Reinertsen[3]、Poppendieck[4]、Leffingwell[5]らは、リーン思考のうち、中核となる原則やプラクティスの多くをプロダクト開発のコンテキストに導入する側面について説明している。これらの要素を組み合わせて、私たちは図1に示すSAFeのリーンの家を提案している。これはトヨタなどのリーンの「家」から発想を得たものである。

図1.  SAFeのリーンの家

目標─価値

リーンの目標には議論の余地はない。持続可能な最短のリードタイムで顧客にとって最大の価値を納品し、同時に顧客と社会全体に可能な限り高い品質のものを提供することである。さらに、士気の高さ、安全性、顧客の喜びも、明白な目的であり利点である。

第1の柱─人と文化への敬意

SAFeは大規模なリーン-アジャイル開発を実施するための系統だった枠組みだが、それ自体が実例として存在するわけでも、実際の作業を行うわけでもない。すべての作業をするのは人である。人と文化への敬意は、SAFeのリーンの家に欠かせない価値である。人は、自分自身のプラクティスを進化させ改善を進める権限を与えられる。管理者は人に変わるよう要求するし、何を改善するべきかを指定することすらある。しかし、問題解決とリフレクションのスキルを身に付け、適切な改善を行うのはチームや個人である。

この振る舞いの推進力となるのが文化である。本当にリーンな組織を展開するには、文化を変化させる必要がある。そのためには、組織とリーダーがまず変わらなければならない。そして、文化や人は社内だけにとどまらない。組織の文化には、サプライヤーや、パートナー、顧客、さらに広いコミュニティーなど、企業を支える人々との長期的関係までが含まれる。

プラスの変化が早急に必要な場合、まずSAFeの価値と原則を理解し、次にSAFeのプラクティスを実施し、それからプラスの結果を納品することで、徐々に文化の改善を成し遂げることができる。文化の変化は自然についてくる。

第2の柱─フロー

SAFeを成功させるうえで重要なのが、インクリメンタルに価値を納品するための継続的な作業フローを、継続的なフィードバックと調整によって確立することである。継続的なフローの確立は、素早い価値の納品、品質に関する効果的なプラクティス、継続的な改善、証拠に基づく効果的なガバナンスを行うために欠かせない。リーンの家のこの柱に示されたフローの原則は、SAFeのリーン-アジャイルの原則の重要な一部であり、さまざまなプラクティスのいたるところに具体化されている。たとえば、価値のストリーム全体を理解する、WIPを可視化して制限する、バッチサイズを小さくして待ち行列の長さを管理する、遅延コストに基づいて作業の優先順位を付ける、などである。リーンでは、品質の作り込み、素早いフィードバック、付加価値のない作業や遅延の特定とその絶え間ない削減も、重要な目標にしている。

これらにより、システム開発プロセスをよりよく理解するための大きな変化がもたらされ、フェーズゲートのプロセスからもっと継続的な価値の納品へと移行する際にリーダーやチームが使用できる新しい思考、ツール、技術が得られる。

第3の柱─革新

価値を納品するための強固な基盤はフローによってもたらされるが、革新がなければ、プロダクトもプロセスも成長が止まってしまう。革新はSAFeのリーンの家の重要な部分である。革新を助けるためにリーン-アジャイルなリーダーは次のようなことを行う。

  • 「オフィスから出」て、価値が生み出されプロダクトが作成され使われる実際の現場に行く。大野耐一が言うように、「役に立つ改善が机上で発明されたことはない」。
  • 人が創意工夫をするための時間と空間を用意する。革新のための時間は、専用に設けなければならない。稼働率100%で常に火消しをしている状況で革新が起きることはほとんどない。SAFeの革新と計画の反復がそのための機会となる。
  • 革新会計を適用する[6]。新しい革新の重要な要素に関するフィードバックを素早く得るための、財務以外の見栄を張らないメトリックスを確立する。
  • 革新を顧客と一緒に検証し、仮説を変更する必要が生じたら慈悲も罪の意識もなしに方向転換する。

第4の柱─容赦ない改善

第4の柱は容赦ない改善である。この柱では、継続的なリフレクションと容赦ない改善によって、組織が学習する組織へと変化する。競争の危険を常に感じていると、学習する組織は改善のチャンスを積極的に追い求める。リーダーとチームは組織として次のことを行う。

  • 組織と開発プロセス両方の、部分ではなく全体を最適化する。
  • 注意深く事実を検討し、それから素早く行動する。
  • リーンなツールや技術を適用して、効率の悪さの根本原因を判断し、効果的な対応策を素早く実施する。
  • 主要マイルストーンでリフレクションを行って、すべてのレベルでのプロセスの短所を隠さずに特定し、対処する。

土台─リーダーシップ

リーンの土台はリーダーシップであり、これがチームを成功に導くための究極の原動力である。これについてのSAFeの哲学は「リーン-アジャイルのパラダイムを採用して成功させる最終的な責任は、企業にもとからいる管理者、リーダー、役員にある」という単純なものである。リーン/アジャイルの擁護者、リーン/アジャイルのワーキンググループ、開発チーム、PMO、プロセスチーム、社外のコンサルタントやその他の関係者に「そのような責任を委譲することはできない」(デミング[7])。成功を成し遂げるには、リーダーはこのような新しい革新的な思考方法の訓練を受け、リーン-アジャイルなリーダーシップの原則と振る舞いを身をもって示さなければならない。

アジャイルは管理者を除外する傾向のあるチームベースのプロセスとして紹介されることが多いが、リーン思考はそのアジャイルの一般的な経験とは外れている。それでは大規模に対応できないからだ。従来型のアジャイルとSAFeの主な推進力の1つとをはっきりと区別するのは次の点である。

従来型のアジャイルでは、チームをサポートし、障害が発生したときにそれを解消する手助けをすることだけが、管理者に期待される。リーン-アジャイル開発では、チームを先導し、リーンの価値を受け入れ、基本のプラクティスに堪能で、障害を積極的に解消し、組織の変化と容赦ない改善を推進するために積極的な役割を担うことが期待される。

アジャイル宣言

1990年代、ウォーターフォール開発手法の多くの課題に対応しようと、いくつかの軽量で反復的な開発手法が生まれた。2001年に、これらの手法のリーダーの多くが、ユタ州スノーバードに集まった。それぞれの手法が具体的にどう優れているかの意見に隔たりはあったが、共通の価値や信念に比べるとアプローチの違いは小さなものであると参加者は合意した。その結果作られたのがアジャイル宣言[8]である。これが、アプローチを統一し、これらの革新的な手法の利点を業界全体にもたらすターニングポイントとなった。アジャイル宣言は、図2に示す価値の声明と、図3に示す一連の原則から構成される。

図2.  アジャイル宣言の価値 図3.  アジャイル宣言の原則

権限を与えられた自己組織化する有能なチームにとって、アジャイル宣言とさまざまなアジャイル手法がアジャイルの土台となる。SAFeでは、この土台を「チームのチーム」のレベルに拡大し、リーン思考を適用してチームの最重要の作業をサポートするシステムを理解し、容赦なく改善する。


さらに知りたい場合

[1] Womack, James P., and Daniel T. Jones and Daniel Roos.The Machine That Changed the World:The Story of Lean Production–Toyota’s Secret Weapon in the Global Car Wars That Is Revolutionizing World Industry.Free Press, 2007.

[2] Ward, Allen and Durward Sobeck.Lean Product and Process Development.Lean Enterprise Institute, 2014.(邦訳:トヨタが実践する価値創造の確かな進め方 リーン製品開発方式、日刊工業新聞社、2014)

[3] Reinertsen, Donald G. The Principles of Product Development Flow:Second Generation Lean Product Development.Celeritas, 2009.

[4] Poppendieck, Mary and Tom Poppendieck.Implementing Lean Software Development:From Concept to Cash.Addison-Wesley, 2006. (邦訳:リーン開発の本質、日経BP社 、2008)

[5] Leffingwell, Dean.Agile Software Requirements:Lean Requirements Practices for Teams, Programs, and the Enterprise.Addison-Wesley, 2011. (邦訳:アジャイルソフトウェア要求:チーム、プログラム、企業のためのリーンな要求プラクティス、翔泳社、2014)

[6] Ries, Eric.The Lean Startup:How Today’s Entrepreneurs Use Continuous Innovation to Create Radically Successful Businesses.Crown Business, 2011.(邦訳:「リーン・スタートアップ」、日経BP社、2012)

[7] Deming, W. Edwards.Out of the Crisis.MIT Center for Advanced Educational Services, 1982.

[8] Manifesto for Agile Software Development. http://agilemanifesto.org/. (アジャイル宣言)

Last update:25 October 2015