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アジャイルソフトウェア開発と従来型の原価計算は相性がよくない。

– Rami Sirkia と Maarit Laanti

予算の概要

SAFeの各ポートフォリオは1つの目的のために存在している。ビジネス戦略を可能にする一連の技術ソリューションを実現するという目的である。これを実現するには、承認された運営予算の範囲内で各ポートフォリオを実施する必要がある。経済面から見て全体として成功しているかどうかを判断する際に、ソリューション開発の運営費用が大きな要因となるためである。このページでは、既に決められたSAFeポートフォリオ予算をSAFeポートフォリオ内でどのように管理するかの基本的な方法を説明する。

ただし、従来型の多くの企業は、リーン-アジャイル開発によってビジネスをアジャイルに実施しようとしても、現在の予算編成方法やプロジェクトの原価計算方法とはそもそも矛盾するのだと、すぐに決めつけてしまう。その結果、リーン-アジャイル開発への移行とそれに伴うビジネス上の利点が危うくなったり、場合によっては達成できないこともある。

これに対処するため、SAFeでは、従来型のプロジェクト資金割り当てのオーバーヘッドなしにこの問題に直接対処できる、リーン-アジャイルな予算編成の戦略を用意している。このモデルでは、支出を制御するのは受託者だけれども、すばやく意思決定をして柔軟に価値を納品する権限がプログラムに与えられる。こうすることで、市場のニーズにずっと素早く対応できる開発プロセスと、専門的で説明責任のある技術支出管理の、両方の利点を企業は手にすることができる。

詳細

SAFeのポートフォリオはどれも、既知の承認済みの投資支出の範囲内で実施される。これは、IT、ソフトウェア/ハードウェア、プロダクト、サービス、ソリューション、またはSAFeポートフォリオ内のその他のプロダクトやサービスの、開発や配置を行うための基本的な受託者ガバナンスである。企業のページで説明するように、各ポートフォリオ、ひいてはすべてのポートフォリオをまとめた全体は、戦略計画プロセスの結果である予算の範囲内で実施される。この様子を図1に示す。

Figure 1. Budgeting overview
Figure 1. 予算編成の概要

これは従来型のプロセスであり、今でもソリューションポートフォリオの投資支出のガバナンスを行う際に使われている。

しかしその後、リーンな企業がまったく異なる方法で動くようになっている。このページではそれを重点的に取り上げる。SAFeでは、ポートフォリオ内の予算編成を劇的に異なる方法で行うことを推奨している。従来型の原価計算に伴うオーバーヘッドと費用を削減できる、非中央集権的意思決定の権限を委譲する方法である。

ポートフォリオレベルの人が他人の作業の計画を立てたり、プロジェクトレベルの作業の費用を管理したりすることがなくなる。その代わりに、リーンな企業は「 リーン-アジャイルな予算編成:プロジェクトを超えた原価計算 」という新しいパラダイムに移行する。このパラダイムでは、投資支出全体を効果的に受託者が制御できるが、オーバーヘッドや摩擦は大幅に減り、スループットも大きく向上する。この様子を次の図2に示す。

Figure 2. Empowerment and governance with Lean-Agile budgeting
図2. リーン-アジャイルな予算編成での権限委譲とガバナンス

図2には、このような未来の状態に達するための5つの主要ステップが描かれている。

  1. プロジェクトではなく価値のストリームに財源を割り当てる
  2. 価値のストリームに内容の決定権を与える
  3. 目的適合性の客観的な証拠を継続的に示す
  4. エピックレベルの取り組みを承認する
  5. 動的な予算編成で会計ガバナンスを行う

このそれぞれについては、後のセクションで説明する。

従来型のプロジェクト原価計算の問題点

しかし、新しいソリューションを取り入れる前にまず、技術の資金をプロジェクトに割り当てるという一般的な方法でどのような問題が生じるかを理解することが大切である。

問題1 – コストセンターに予算を割り当てると複数の課題が生じる

リーン-アジャイル開発に移行する前の、ほとんどの企業における予算編成プロセスは、図3のようなものである。

Figure 3. Traditional project-based cost budgeting and cost accounting model
図3. 従来型のプロジェクトに基づく予算編成と原価計算モデル

企業はコストセンターに分かれていて、新しい作業を始めようとすると、それぞれのコストセンターが、新作業用のプロジェクトの支出や人(主要なコスト要素)を分担しなければならない。その結果、以下に示すようないくつもの問題が発生する。

  1. プロジェクトの予算編成プロセスが複雑になり時間がかかる。プロジェクト予算を作成するために複数の個別の予算(コストセンターごとに1つ)が関係する。
  2. チームは、未確定事項が山積みのまま早すぎる段階で詳細な意思決定をすることになる。これは強制的である。すべてのタスクを特定できなければ、どれだけの人がどれだけの期間必要になるかを見積もれないからである。
  3. 人の割り当ては一時的である。組織は、人がコストセンターに戻ってきて、その後、別の作業に割り当てられると想定している。戻ってこなければ、計画している他のプロジェクトに問題が生じる。
  4. このモデルでは、コストセンターの管理者は、全員を完全に割り当てることを求められる。しかし、100%の稼働率でプロダクト開発を実施すると経済的に破綻する[2]。その結果、計画に大きなばらつきが出る。
  5. このモデルでは、個人やチームが1つのプロジェクトの期間を超えて協力することができない。その結果、知識の獲得、チームの能力、従業員の雇用が妨げられる。また、同じ場所に集まることは不可能である。

問題2 – プロジェクト単位の制約により適応性と経済効果が低下する

プロジェクトの開始後にも問題は引き続き発生する。ビジネスの実際のニーズとプロジェクト固有の事実パターンはすぐに変化する。しかし、予算や人がプロジェクトの期間を通して固定されているため、プロジェクトは優先順位の変化に柔軟に対応することができない。その様子を図4に示す。

Figure 3. Project funding inhibits agility
図4. プロジェクトの資金が決まっているため変化にアジャイルに対応できない

結果として、組織はビジネスのニーズの変化に柔軟に対応できず、対応しようとすると予算や人の割り当てを見直すためのオーバーヘッドが生じる。オーバーヘッドが生じると、財政面で損害が出る。遅延コスト(やるべきことをやらなかったためのコスト)が増加する。

問題3 – 遅延が生じて状況がさらに悪化する

しかしこれで終わりではない。プロダクト開発でリスクを負わずに変革を起こすことはできない[2]。そもそもの性質からして、開発は、技術的に未確定なことが多いため、見積もりが非常に困難である。ほとんどの場合に計画より長くかかってしまうことは誰でも知っている。さらに、非常にうまく進んだ場合ですら、利害関係者が特定の機能をもっと充実させてほしいと望むことがある。それにも余分な時間がかかる。ここでもまた、プロジェクト単位の資金割り当てでは、進捗や文化や透明性に悪影響が出る。これを図5に示す。

Figure 5. When “overruns” happen, project accounting and re-budgeting increases Cost of Delay, negatively impacts culture
図5. 「超過」が生じると、プロジェクトの会計処理や予算の見直しにより遅延コストが増大し、文化に悪影響が及ぶ

何らかの理由でスケジュールが超過すると、差異を分析し、予算と計画を見直すことが必要になる。リソースの奪い合いが生じ、人の再割り当てが行われる。他のプロジェクトにも悪影響が及ぶ。責任のなすり合いが始まり、プロジェクト管理者とプロジェクト管理者が、財務アナリストとチームが、争うことになる。プロジェクトの超過は必ず予算に影響する。透明性と生産性と士気に犠牲が出る。

SAFeによるプロジェクトを超えた原価計算

従来型の原価計算を行うと、より早く納品し経済効果を向上するという目標を達成することが著しく妨げられることは明らかである。ただし、先に述べたように解決方法が現れてきた。そのそれぞれの要素について以下のセクションで説明する。

1 – プロジェクトではなく価値のストリームに財源を割り当てる

最初のステップとして、日々の支出についての意思決定(と関連するリソースについての意思決定)をソリューションに近いところに移動することで、権限委譲を促進し、オーバーヘッドを削減する。これは、それぞれの価値のストリームに予算を割り当てることで行う。その様子を図6に示す。

Figure 6. Operating budgets (allocated spend, personnel, and other resources) are defined for each value stream
図6. 運営予算(割り当てられた支出や人やその他のリソース)は価値のストリームごとに決められる

これは大きなステップであり、リーンな企業に多くの利点をもたらす。

  • 現在のバックログやロードマップの状況に応じて人やリソースに予算を割り当てる権限が、価値ストリームエンジニア(VSE)プログラムポートフォリオ管理などの価値のストリーム(VS)の利害関係者に与えられる。
  • 価値のストリーム(とそれを実現するアジャイルリリース列車)は長期にわたって存在するため、参加するメンバーは長期間一緒に働くことになり、士気や知識や能力や生産性が向上する。
  • 価値のストリームがリソースプールの役割を果たすため、ものごとが変化したときに、価値のストリーム内の人々は現在の状況に柔軟に対応できる。おそらくVS/ARTレベル以上に許可を求めることなしに、チームからチームへ、さらにはARTからARTへと移動することができる。
  • 予算はこれまでどおり制御される。ほとんどの場合、1つのプログラムインクリメント(PI)全体の支出は固定されているか予測が容易であるため、どのフィーチャーの作業をするかに関係なく、すべての利害関係者が次の期間の予想支出を理解できる。また、フィーチャーに計画以上の期間がかかった場合でも、予算には影響がなく、人に関する意思決定は(予算やプログラムではなく)局所的な関心事でしかない。その様子を図7に示す。
Figure 7. The budget for a PI is fixed. When things take longer than anticipated, resources are not moved and the budget is NOT affected.
図7. PIの予算は固定されている。予想より長い期間がかかったとしても、リソースは移動されず予算に影響はない。

2 – 価値のストリームに内容の決定権を与える

ステップ1は大きな前進である。しかし、予算のほかに、企業は価値のストリームが正しいものを構築していることにも確信を持てなければならない。これは、そもそもプロジェクトが作成された理由の1つでもある。SAFeはこれにも対応している。プロジェクトによってではなく、ソリューション/プロダクト管理の権限委譲と責任によってである。また、全員が見ることができるように、今後のすべての作業は、ソリューションとプログラムバックログにおいて作成され、含められ、優先順位が付けられる。この様子を図8に示す。

Figure 8. Transparent content decision-making authority by Solution and Product Management
図8. ソリューション/プロダクト管理が持つ透過的な内容についての意思決定権限

作業はWSJFの経済的優先順位に基づいてバックログからプルされるため、受託者は、健全で論理的な経済的根拠に基づいて重要な決定がなされること、適切な利害関係者が関与していることを確認できる。

3 – 目的適合性の客観的な証拠を示す

第5原則 – 動くシステムの客観的な評価を基にマイルストーンを設定する 」がパズルの次のピースである。価値のストリームの規模のものに予算を割り当てた場合でも、その投資がどう使われているかについての素早いフィードバックを関係者全員が期待するのは理にかなっている。幸いなことに、SAFeには進捗を評価するための定期的なリズムベースの機会がある。プログラムインクリメントごとに行うソリューションデモと、必要であれば2週間ごとに行うシステムデモである。これには、顧客、プログラムポートフォリオ管理、ビジネス責任者リリース管理などの主要利害関係者と、チーム自身が参加する。受託者は、これらのデモに参加して、正しいものが正しい方法で構築されていることと、それが顧客のビジネスニーズを満たしていることを、プログラムインクリメントごとに保証することができる。

4 – エピックレベルの取り組みを承認する

価値のストリームの予算は大きな単位で割り当てられるが、その規則には1つの例外がある。つまり、エピックはそもそもの定義からして、追加の承認が必要なだけ規模も影響も大きいという点である。取り組みの影響が複数の価値のストリームやARTに及ぶことも多く、費用は数百万ドルになることがある。そのため、ポートフォリオレベル、価値のストリームレベル、及びプログラムレベルのどのレベルで発生したものかに関係なく、すべての取り組みをシステムや軽量のビジネス企画を使って入念に調べる必要がある。その様子を図9に示す。

Figure 9. Epics require approval
図9. エピックは承認が必要

ポートフォリオエピックの資金は、予備の予算から割り当てることもできるし、ことによると別の価値のストリームから人や予算を割り当て直すこともできる。価値のストリームエピックやプログラムエピックは、ローカルで発生することもあれば、ポートフォリオレベルのエピックの結果として発生することもある。しかし、承認されてしまえば、その資金は価値のストリームから割り当てられる。いずれの場合でも、エピックは規模が大きいため、分析も、戦略的、経済的な意思決定も必要である。それがエピックをエピックたらしめる理由である。

5 – 動的な予算編成で会計ガバナンスを行う

最後に取り上げるのは、価値のストリームはほとんどの面で自己組織化および自己管理するものであるが、自身を作成したり、自分で財源を確保することはできないという点である。そのため、プログラムポートフォリオ管理が、ポートフォリオの中で価値のストリームの予算を設定し調整する権限を持つ。しかし、変化に対応できるよう、ビジネスの動的な変化に応じて資金の割り当ても時間とともに変化していく。その様子を図10に示す。

Figure 10. Value stream budgets are adjusted dynamically over time
図10. 価値のストリームの予算は時間とともに同的に調整される

通常、この予算は年に2回調整することができる。回数がそれより少なければ、支出の固定される期間が長すぎて、アジャイルに動きにくくなる。それより多ければ、企業は非常にアジャイルに見えるかもしれないが、人は足元が定まらない。不確定要素が多くなりすぎて、短期的な行動を確約できなくなる。


さらに知りたい場合

[1] このトピックに関するホワイトペーパーはここをご参照ください。著者のRami SirkiaとMaarit Laantiに感謝いたします。

[2] Reinertsen, Don. Principles of Product Development Flow: Second Generation Lean Product Development. Celeritas Publishing, 2009.

Last update: 17 November 2015