Economic Framework

経済的視点を取る。

—SAFe リーン・アジャイル原則 #1

経済的枠組み概要

経済的枠組みは、使命と財務上の制約(プログラムポートフォリオから生じた予算上の考慮事項など)の両方を満たすよう全員を連携させる意思決定規則である。SAFeのリーン-アジャイルの第1原則は、経済的な視点で見ることであり、この原則によって、ソリューション開発を成功させるために経済が果たす主要な役割が明らかになる。

根拠は単純である。基本的な経済上のどのような理由でソリューションが求められているかをチーム全員が理解していると、財務的な合意の上で意思決定を行うことができるからである。その結果、リーダーや管理者(ソリューション管理やプログラムポートフォリオ管理の代表者を含む)は、意思決定を非中央集権化(SAFeのリーン-アジャイルの第9原則)しながらも、意思決定権限の移譲先の人に日々の決定に必要な基盤を示すことができる。

そのような状況になると、予算や開発スケジュールや原価の責任者は、財務やスケジュールやリスクに関する合意済みのプログラム要素に基づいて意思決定が行われていることに確信が持てる。

詳細

SAFeでは、ソリューション開発を成功させるために経済が果たす重要な役割を明らかにしている。そのため、SAFeのリーン-アジャイルの第1原則は、経済的な視点で見ることである。第1原則になっているのには理由がある。ソリューションが顧客やシステム構築者の経済目標を満たさなければ、ソリューションの長期的な実現性が疑われるためである。ソリューションが失敗する原因は数多く考えられるが、経済面での失敗が第一の原因である。

このページでは、リーダーや実務者が日々優れた判断を下して最適な経済的結果が得られるよう設計された、一般的な思考ツールやSAFeの構成要素について説明する。ただし、詳細に踏み込む前に、リーン-アジャイルの納品と経済面がどう交わるかを理解しておくことが重要である。次のセクションではそれを取り上げる。

最優先事項 – 早い段階から頻繁に納品する

企業がリーン-アジャイル開発を取り入れるという大きな意思決定をするのは、既存のプロセスによって必要な結果が現在得られていないか、将来得られなくなると予想しているためである。リーン-アジャイルの道を選ぶことで、インクリメンタルに開発し早い段階から継続的に価値を納品するというモデルを選択したことになる。その様子を図1に示す。

Figure 1. Moving to early and continuous delivery
図1. 早期かつ継続的な納品への移行

この意思決定だけでも、図2に示すような、大きく、おそらくは本質的な、経済的利点が得られる。

Figure 2. Incremental development and delivery produces value far earlier
図2. インクリメンタルに開発し納品するとずっと早い段階で価値が生まれる

この図には、プロセスのずっと早い段階で顧客に価値が納品される様子が示されている。さらに、この価値は時間とともに積み上がっていく。顧客のもとに長くあるほど、顧客が受け取る価値が多くなる。ウォーターフォールモデルの場合には、計画された開発サイクルの最後になっても、価値はまだ生まれ始めていない。この違いは、SAFeの実質的な経済的利点である。また、上の図には、ソリューション構築担当者にずっと早くフィードバックが返されるという利点や、ウォーターフォールでは最終的な納品が実際にスケジュールどおりに行われる可能性が低いこと、納品されても使用に堪えない可能性があることが反映されていない。そして、最優先事項に関して3番目で最後の要因がある。これを図3に示す。

Figure 3. Value is higher early on, producing higher margins over a longer period of time
図3. 価値は初期の方が高く、長期間にわたって高い利益を生み出す

図3には、品質が十分に高いという前提ではあるが、早い段階で市場に納品されたものの方が通常は価値が高いという大きな差別化要因が示されている。十分に早ければ他から入手することはできないため、購買担当者は価格が高くても納得することになる。時間が経つとフィーチャーは日常品化し、価値の差別化要因ではなくコストが重視されるようになる。これはつまり、実行可能な最低限のプロダクト(Minimum Viable Product:MVP)であっても、早期の購買者にとっては、遅くに納品される完全なフィーチャーを備えたプロダクトよりも価値が高いかもしれないということである。正味の効果として、ソリューション構築者にとっての累積的な総利益が増加する。これがリーン-アジャイル開発の基本的な根拠である。これはリーン-アジャイルの考え方にしっかりと定着しており、ソリューション構築者はこの考え方に基づいて持続可能な範囲でリードタイムを最短にしようと常に努力する。

価値のストリームの経済的トレードオフの5つのパラメータ

上述の最優先事項により、ソリューション構築者はこの効率の高い経済モデルへと導かれる。しかし、プログラムを実施するときにはずっと多くの作業を行わなければならず、ソリューションの一生を通じて行われていく経済的意思決定が最終的には結果を左右する。そのため、価値のストリームの経済面についてもっと掘り下げて検討することが必要である。これに関してはReinertsenの書籍を参照してほしい[1]。Reinertsenは、1つの投資に関して経済面を考慮するときに、通常は5つの主要パラメータを使用できるとしている。これを図4に示す。

Figure 1. Five primary tradeoff parameters for product development economics
図4. プロダクト開発の経済面に使用する5つの主要トレードオフパラメータ

図中の各項目は以下を指す。

  • 開発費用:システム能力の実装に必要な人件費や材料費
  • リードタイム: システム能力を実装するのにかかる時間
  • コスト: 製造コスト(販売商品のコスト)や配置/運用コスト
  • 価値:ビジネスおよび顧客にとってのシステム能力の経済的価値
  • リスク:ソリューションの技術的/ビジネス的実現性の不確実さ

これらのトレードオフを理解しておくと、ライフサイクル全体の利益を最適化するのに役立つ。これは開発の最適な経済的価値を解き明かすための鍵となる。ただし、それにはプロジェクトについての深い理解が必要である。以下に例を2つ挙げる。

ホームオートメーションシステムを構築しているあるチームでは、より多くの機能をソフトウェアに移動することで電子部品のコストを100ドル削減できると見積もっている。しかしその結果としてリリースのリードタイムが3か月遅れる。これは行うべきだろうか。答えは明らかに「状況次第」である。プロダクトの予想売上高と、新しいリリースを3か月余分に市場に出せないことによる遅延コストとの比較結果次第である。意思決定をする前にさらに分析を行う必要がある。

多大な技術的負債を持つ大規模ソフトウェアシステムの保守がどんどん困難になってきている。開発費用はほとんど固定である。今の段階で技術的負債に重点的に対処すると、短期的には納品できる価値が明らかに減るが、今後のフィーチャーについてのリードタイムも減る。これは行うべきだろうか。これもまた、答えは「状況次第」である。定量的な検討をさらに行う必要がある。

Reinertsenは、トレードオフパラメータの他に、チームが経済面に基づいて確かな意思決定を行う上で役立ついくつかの主要原則についても記述している。たとえば次のようなものである。

  • 遅延コストの定量化の原則: 何か1つだけを定量化するなら、遅延コストを定量化するべきである。
  • 継続的な経済的トレードオフの原則: 経済的な選択は継続的に行わなければならない。
  • 最適な意思決定タイミングの原則: それぞれの意思決定には、それを行う最適な経済的タイミングがある。
  • サンクコストの原則: すでに使った金額を考えてはならない。
  • 意思決定規則第一の原則: 意思決定規則を決めて経済面の管理を非中央集権化する。

SAFeに関してこれらを詳しく説明する必要はないだろう。これらが組み合わさって、後のセクションで説明する大きな意思決定フレームワークの情報源となる。

経済的意思決定のためのSAFe構成要素

上記の最後の原則は、他のすべての原則を結びつける特に意味のある原則である。SAFeの第9原則は「意思決定を非中央集権化する」であり、これらの大部分の意思決定を経済に基づいて行うのは当然のことである。この経済的枠組みの意思決定規則がSAFeにどう組み込まれているかを図5に示し、その後でそれぞれの要素について説明する。

Figure 5. SAFe constructs for economic decision-making
図5. 経済的意思決定のためのSAFe構成要素

リーン-アジャイルな予算編成。最初の意思決定は重要である。リーン-アジャイルな企業は、プロジェクトごとのコストセンターでの会計処理から、無駄の少ない予算プロセスへと移行するためである。この新しいプロセスでは、期間の長い価値のストリームに資金が割り当てられる。その後、それぞれのプログラムインクリメントの費用がおおまかに固定され、そのPI予算に収まるよう必要に応じてスコープが変更される。また、それぞれの価値のストリームの予算は、PIの境界で見直すことができる。この見直しは、それぞれの価値のストリームのソリューションがポートフォリオに対して相対的にどれだけの価値を提供するかに基づいて行う。

エピックの財源とガバナンス。財源を価値のストリーム(ひいてはアジャイルリリース列車)に割り当てるのはよいが、ポートフォリオエピックなどの横断的な重要項目や、価値のストリームやプログラムのエピックに代表される重要な局所的投資項目が存在する場合にはどうなるだろうか。財源の割り当てを権限委譲する場合は、日常的な処理を超える投資については伝達するという責務も同時に必要である。これが、ポートフォリオカンバンシステムとそれに関連するポートフォリオエピック、価値のストリームエピック、プログラムエピックの第一の目的である。そのそれぞれに、軽量ビジネス企画と明確な承認処理が必要である。

非中央集権的な経済的意思決定。 フレームワークのこれらの要素を整えたら、企業は、関連するコンテキストと知識を持つ人に、フレームワークの各レベルで内容に関する意思決定を行う権限を移譲する。もちろん彼らは単独でそれを行うわけではなく、より大きな利害関係者コミュニティーと協力して最善の行動を判断する。しかし、最終的な判断は彼ら自身が行う。それが主な責任であり、職権であるからである。

遅延コストに基づく作業の順序付け。どの重要なプログラムでも、ソリューションの効果を高めるための新しい多くのフィーチャーおよびシステム能力が、バックログ内で実装を待っている。しかし、SAFeはフローに基づくシステムであり、フローに基づくシステムの経済は、理論上の作業のROIや、ましてや先着順の作業選択ではなく、作業の順序付けによって最適化される。次に行う作業を適切に選択することで、経済的利点が最大化される。これは、プログラムと価値のストリームのカンバンシステムと、プログラムと価値のストリームのバックログという中間領域によって実現される。作業は WSJFに基づいて実装にプルされるが、期間の代用として作業サイズの見積もりが通常は使用される。

構成要素は枠組みであり、意思決定を行うのは人である

このページでは、一連の経済原則と思考ツールと、経済的意思決定のために組み込まれたSAFeの構成要素を取り上げた。これらが組み合わさって、ポートフォリオや価値のストリームの経済面に基づいて効果的な意思決定を行うための基礎となっている。SAFeでは、意思決定チェーンの中に含まれる人の役割や責任も定義している。ただし、意思決定が自動的に行われるわけではない。リーン-アジャイルなリーダーが引き続きこれらの構成要素を適用し、他のメンバーに使い方を教える。その結果、開発組織全体で経済に基づいた意思決定ができるようになり、それによってリーン-アジャイル開発の経済的利点が最大限に企業にもたらされる。


さらに知りたい場合

[1] Reinertsen, Donald G. The Principles of Product Development Flow: Second Generation Lean Product Development. Celeritas Publishing, 2009.

Last update: 30 November 2015