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技術革新や市場の進化や顧客の認識が組み合わさって会社が根本的に変化するか死ぬかしかなくなったとき、それが戦略的転換点である。

– アンディ・グローブ 『Only the Paranoid Survive』(邦訳:『インテル戦略転換』)

企業の概要

それぞれのSAFeポートフォリオには、企業がビジネス戦略の何らかの要素を実現するために必要なプロダクト、サービス、ソリューションについて、資金とガバナンスを提供するのに必要な一連の価値のストリームとその他の構成要素が含まれる。中小企業では、通常、1つのSAFeポートフォリオだけで技術ソリューションセット全体を管理できる。大企業(通常は500~1,000人以上の技術者がいる企業)では、複数のSAFeポートフォリオが存在することがある(事業ラインごとに1つ)。

 

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どちらの場合でも、ポートフォリオがビジネスの全体なのではなく、ポートフォリオソリューションセットが進化して企業のニーズを満たすようにすることが重要である。SAFeでは、企業戦略とポートフォリオを結び付けるための3つの主要構成要素を用意している。1番目は予算、つまり、ポートフォリオの業務費および資本的支出となる全財源である。この投資の枠の中でポートフォリオを運営しなければならない。2番目は、企業からポートフォリオへ戦略意図のそれぞれの側面を伝える、一連の戦略テーマである。3番目は、ポートフォリオコンテキスト(後で説明する)からの絶え間ないフィードバックである。これによってガバナンスが提供され、継続中の戦略策定に情報が伝えられる

このページでは、この重要な情報を企業が定義し伝達するための一般的な指針について説明する。

詳細

SAFeのポートフォリオレベルは、SAFeで明確に示されている最上位の関心事を表す。それぞれのプログラムポートフォリオは、価値を納品する一連の価値のストリームから主に構成されている。ポートフォリオレベルには、ポートフォリオへの投資を管理しポートフォリオをビジネス目標へと導くのに必要な構成要素(リーン-アジャイルな予算プログラムポートフォリオ管理(PPM)、ポートフォリオカンバンシステムポートフォリオバックログエピックなど)が含まれる。

しかし、どのポートフォリオも存在理由は同じである。つまり、企業戦略全体の実現に向けて担当部分を遂行することである。これは、各ポートフォリオのビジョンを企業戦略と整合させることで達成される。そのための主要メカニズムには、価値のストリーム自体、全ポートフォリオ予算(予算の円グラフに表される「円」全体)、進化する戦略意図を伝える戦略テーマ、ポートフォリオコンテキストによる絶え間ないフィードバックがある。 価値のストリームを定義し、その価値をアジャイルリリース列車によって実現するための指針は、それぞれのページに示す。このページでは、予算、戦略テーマ、ポートフォリオコンテキストを作成し伝達する方法を扱う。

企業のSAFeポートフォリオが1つの場合

まず、プロセスのこの要素を含む全体の状況を理解することが大切である。実務者が千人程度までの企業で総合的なソリューションセットを協力して納品する場合、必要なのは1つのポートフォリオ(SAFeの1つのインスタンス)だけである。この場合、1つのポートフォリオだけが存在し、予算全体が権限を持つPPMによってポートフォリオ内の価値のストリームに割り当てられる。ポートフォリオは、戦略テーマと予算によってビジネス戦略に結び付けられ、ポートフォリオコンテキストによって企業にフィードバックを返す。その様子を図1に示す。

Figure 1. Enterprise view of a single portfolio
図1. 企業のポートフォリオが1つの場合

大企業には複数のSAFeインスタンスが必要

しかし、SAFeは世界最大規模のシステム/ソフトウェア会社でも使われて成功を収めている。これらの企業の多くには、数千人、あるいは数万人という、IT、システム、アプリケーション、ソリューション開発の実務者がいる(10万人を超える場合もある)。

もちろん、これらの実務者全員が同じソリューションに従事しているわけでも、同じ価値のストリームに属しているわけでもない。一般的に、ITおよび開発のメンバーは、さまざまな事業ライン、社内部門、顧客層、またはその他のビジネス目的をサポートするために組織にまとめられる。もっとも多いのは、それぞれの業務部門が千人以下の実務者を抱え(ずっと多い場合もあるが)、1つのSAFeポートフォリオを担当するという状況である。

大きな目的を達成するために、企業は複数のSAFeポートフォリオを持ち、ポートフォリオそれぞれが独自の予算と戦略テーマを持ち、その予算と戦略テーマにビジネス戦略のうちその部門が担当する部分が反映される。その様子を図2に示す。

Figure 2. Enterprise view of multiple SAFe portfolios
図2. 企業のSAFeポートフォリオが複数の場合

どのSAFeポートフォリオも、より大きな企業というコンテキストの中に存在する。このコンテキストから、ポートフォリオで対処しなければならないビジネス戦略が生まれる。また、すべてのポートフォリオに対する全体的な資金とガバナンスのモデルもこのコンテキストから提供される。

企業戦略を基にポートフォリオ戦略が決まる

企業ビジネス戦略の作成とそれを実現するためのソリューションへの投資は、いくらか中央集権的な性質を持つ。会社の業績全体に直接責任を持つ役員や受託者の第一の責務だからである。結局のところ、ポートフォリオは、勝手に生まれたり資金を調達するわけではなく、企業の目的を満たすためだけに存在するのである。

ポートフォリオコンテキストから企業戦略への情報提供

しかし、戦略には創発特性がある。また、戦略は現在のビジネスコンテキストに基づいたものでなければならず、そのビジネスコンテキストは、現在のソリューションセットや対象とする市場の状況に含まれる課題やチャンスに左右される。そのため、戦略を作成するには、下流のポートフォリオに対して継続的に協調、伝達、整合を行っていく必要がある。言い換えるとポートフォリオコンテキストを完全に意識しておかなければならない。たとえば次のようなものである。

重要業績評価指標 。割り当てられた投資支出についての適切なフィードバックを提供するのはポートフォリオの義務である。このフィードバックには、ROI、市場シェア、顧客ネットプロモータースコア、革新会計[2]などの定量的な財務測定基準が含まれる。

定性的データ。割り当てられた投資支出についての適切なフィードバックを提供するのはポートフォリオの義務である。このフィードバックには、ROI、市場シェア、顧客ネットプロモータースコア、革新会計[2]などの定量的な財務測定基準が含まれる。

戦略策定

ポートフォリオ予算と戦略テーマの決定は戦略策定の中の作業である(戦略テーマを参照)。広範囲の協調が必要である。戦略策定を行うための考え方には、非常に幅広いさまざまなものがある。技術分野で現在流行していて影響力が強いものに、ジェフリー・ムーアの一連の書籍[1]と『リーン・スタートアップ』[2]がある。ビジネスモデルキャンバスやリーンキャンバス[4]など、より限定的な戦略策定方法も、さまざまなものが流行している。

効果的な策定方法の1つがジム・コリンズの『Beyond Entrepreneurship』[3]で説明されている。このプロセスの出力は一連の戦略テーマであり、そこに捉えられた継続中の企業戦略の「スナップショット」によって、進化する戦略意図や予算がポートフォリオに伝えられる。図3は、この方法をSAFeのコンテキストに合わせて調整したときの主な側面を表している。それぞれの側面について後のセクションで簡単に説明する。

Figure 3. Solution portfolio strategy formulation
図3. ソリューションポートフォリオの戦略策定

 

企業の全予算とプログラムポートフォリオへの投資。全運営予算(または人やその他のリソースの割り当て)の範囲内で、すべてのSAFeポートフォリオのすべての技術ソリューションに対する予算割り当てが決められる。場合によっては、これが資本的支出および業務費の指針にもなる(資本的支出と業務費のページを参照)。

企業のビジネス要因。企業のビジネス要因には、進化するエンタープライズ戦略が反映される。現在のビジネス/ソリューションポートフォリオコンテキストは大部分が理解されているため、明白なことを繰り返す必要はない。そうではなく、現在の戦略からの変更を反映しなければならない。たとえば、ビジネス要因には「新しく買収したシステム能力をスイートに統合する」(セキュリティ会社)、「アプリケーションをクラウドに移行する」などがある。

財務目標。収益、採算性、市場シェア、あるいはその他の測定基準のどれで測定するにしても、ビジネスの財務成績の目標は明確にしておかなければならない。このような財務要素の一部はポートフォリオにも伝えられる。

使命、ビジョン、中核価値。使命とビジョンと一連の中核価値を明確に統一しておくと、目的がぶれず、戦略策定の境界が定まる。

競争環境。競合分析によって、最大の脅威やチャンスのある領域が明らかになる。

ポートフォリオコンテキストと特徴的な能力。最善の戦略は完全なポートフォリオコンテキストの中で策定される。これはKPIやSWOT分析などで行うことができる。しかし、戦略的差別化により、企業が本当に得意な事柄、つまり現在の成功の基となったビジネスと技術のDNAが強調される。

図3では、ポートフォリオの予算と戦略テーマはプロセスの出力である。このプロセスで、ビジネス受託者などの利害関係者は、一連の入力を体系的に分析してから結論を出す。ここでのその結論が、それぞれのポートフォリオ予算と戦略テーマである。

実行の非中央集権化

SAFeの第9原則 – 意思決定を非中央集権化するに従うと、ビジネス戦略策定は主に中央集権的ではあるが協調的な作業になる。ここではビジネス受託者と主要なポートフォリオ利害関係者が中心的な役割を果たす。しかし、ソリューション戦略の実行は、ポートフォリオに分散して、透明性、絶え間ないフィードバック、KPI、適切なポートフォリオメトリックスに基づいて行われる。これらの人々だけが、価値のストリームやARTの定義/展開/予算計上を行ったり、経済的枠組みを適用したり、変化する顧客のニーズや新しい市場のチャンスに対応するのに必要なソリューション開発を管理するための、ローカルの知識を持っているからである。


さらに知りたい場合

[1] Moore, Geoffrey. Crossing the Chasm (1991, 2014), Inside the Tornado (1995 and 2004), and Escape Velocity (2011). Harper Business Essentials.)(邦訳:「キャズム」、翔泳社、2002。「トルネード」、翔泳社、2011。「エスケープ・ベロシティ」、翔泳社、2011)

[2] Ries, Eric. The Lean Startup: How Today’s Entrepreneurs Use Continuous Innovation to Create Radically Successful Businesses. Random House, 2011.(邦訳:「リーン・スタートアップ」、日経BP社、2012)

[3] Collins, Jim and William Lazier. Beyond Entrepreneurship: Turning Your Business into a Great and Enduring Company. Prentice Hall, 1992.

[4] Maurya, Ash. Running Lean: Iterate from Plan A to a Plan That Works. O’Reilly Media, 2012. (邦訳:「Running Lean ―実践リーンスタートアップ」、オライリージャパン、2012)

Last update: 7 December 2015