Supplier

最高な経済効果を得るため、買い手とサプライヤーの長期的な関係が欠かせない

– W.エドワーズ・デミング [1]

サプライヤーの概要

リーン-アジャイルな組織は、可能な限り高い品質の価値を最短のリードタイムで顧客に納品する。可能であれば、サプライヤーと契約して、使命を達成するために役立つコンポーネントやサブシステムの開発および納品を任せる。サプライヤーは、他とは異なる明確に優秀なスキルやソリューションを持っていて、その技術の専門家である。早く経済的に納品するためには、彼らに依頼すると高い効果を得られる可能性がある。そのため、ほとんどの価値のストリームにサプライヤーが参加していて、価値を納品できるかどうかは彼らの能力に大きく依存する。

このページでは、サプライヤーを価値のストリームにどう統合するかを説明する。その方法はある程度はサプライヤー自身の開発/納品手法に依存するが、いずれにしても、リーン-アジャイルな企業は、サプライヤーを長期的なビジネスパートナーとして扱い、価値のストリームにしっかりと関与させる。また、サプライヤーに積極的に働きかけて、彼らがリーン-アジャイルの考え方やプラクティスを取り入れるのを手助けする。これにより、両者にとっての経済的利点も拡大する。

詳細

サプライヤーはSAFeにおいて重要な役割を果たす。他にはないシステム能力やソリューションを持っているため、彼らに依頼すると経済的に大きな価値が得られる可能性がある。持続可能な最短のリードタイムで顧客に価値を納品するという 総合目的を達成する上で、サプライヤーは企業価値のストリームのリードタイムおよび価値納品に大きな影響を及ぼす可能性がある。

サプライヤーは、企業の外部の場合も、組織内の他の価値のストリームの場合もある。しかし、サプライヤーも独自の使命や、他のクライアントに対して納品する独自のソリューションを持っているし、当然ながら彼ら自身の経済的枠組みも持っていることを、企業は意識している。両方の組織が最適な結果を得るには、緊密な協調と信頼が必要である。

しかしこれまで、業界は、自分たちが選んだものをサプライヤーに委託し、購買契約をするという従来型の方法で苦しんできた。ここでは、通常、現在および将来の両方においてサプライヤーのソリューションやサービスが購入側の目的や文化に合う最適なものかどうかよりも、価格が重視される。さらに、できるだけ価格の低いところを探そうと定期的にサプライヤーを切り替えたり、世界のもっともコストの低い地域でサプライヤーを調達したりするのが慣習になっていることすらある。そして、会社がサプライヤーを確保した後、サプライヤーは多くの場合距離を置いて扱われ、必要になって初めて情報を知らされるようになる。たいていは、ほとんど話し合うこともなく、仕様とスケジュールと、場合によっては価格までを割り当てられる。

リーン-アジャイルな企業では、まったく異なるものの見方をし、はるかに協調的で長期的な、信頼に基づいた関係をサプライヤーとの間に築く。サプライヤーにも企業の文化や精神が広がり、本当のパートナーとして扱われる。サプライヤーの能力や方針や経済状況が明るみに出され、理解される。

しかし、サプライヤーの基本的な考え方や信条や開発方法が購入側のものと著しく異なっている場合には、この状態になるのは困難な場合がある。一般に2つの状況を考えなければならない。サプライヤーがリーン-アジャイル開発を受け入れて導入している場合と、そうでない場合である。ほとんどの場合、大企業は両方の状況に対応しなければならないが、目的は同じで、協調性の高い長期的かつ適応的で透過的なパートナー関係を築くことである。

リーン-アジャイルなサプライヤーとの連携

リーン-アジャイルなサプライヤーをポートフォリオの価値のストリームに貢献者として巻き込むのは、比較的容易である。作業モデルや期待する事柄はほとんど同じであり、現在のリーン-アジャイルのプラクティスの多くは、当然のものとして使用することができる。

  • サプライヤーは、アジャイルリリース列車として扱われ、他のARTと同じリズムで作業を行う。
  • サプライヤーはPI計画PI計画前/後ミーティングに参加し、次のプログラムインクリメントで納品する予定のものと、各反復で何を納品するかの目安とを示す。
  • サプライヤーは、担当するサブシステムやコンポーネントについてシステムデモのときにデモを行い、ソリューションデモに参加し、行った作業を価値のストリームの他の部分と継続的に統合し、他の列車にフィードバックを提供する。
  • サプライヤーは、検査と適応のワークショップに参加する。これは、価値のストリーム全体を改善することにもなるし、サプライヤー自身のリーン-アジャイルのプラクティスを改善するのにも役立つ。

サプライヤーとしての役割や企業の価値のストリームに対する貢献の他に、サプライヤーにとっては企業が彼らの顧客であることも考慮しなければならない。これは、彼らの顧客(購入側の企業)が彼らの開発の価値のストリームに定期的に参加することをサプライヤーが期待しているし、期待するべきであることを意味している。

従来型の方法論を使用しているサプライヤーとの連携

フェーズごとに分かれた従来型の開発手法を使用しているサプライヤーと連携する場合は、もう少し注意が必要である。サプライヤーがすぐにリーン-アジャイルのパラダイムに移行してくれるとリーン-アジャイルな企業が思い込むのは、妥当でも実際的でもない。サプライヤーの中には顧客よりもずっと規模が大きい企業もあり、大規模企業が変化するのはそれほど簡単ではないからである。(ただし、長期的に見ると、そのような期待ができる場合もある。)

作業モデルが異なるため(たとえば一度に対処する作業のサイズが大きかったり、インクリメンタルでない開発を行っているなど)、彼らに期待する内容をいくらか変える必要があるかもしれない。その例を以下に示す。

  • 初期のPIでは、最初に事前の設計を行う時間をいくらか取って、サプライヤーが自分たちの計画を立て、デモや納品のマイルストーンを決定できるようにする。サプライヤーが公式な要求や仕様を欲しがる場合がある。
  • サプライヤーは、おそらくインクリメンタルな納品は行わない。
  • 要求や設計の変更は早くに理解する必要があり、それに対応する時間は長くなりがちである。

ただし、サプライヤーに対していくらかの要望を出したり振る舞いを期待することは可能だし、そうするべきである。

  • PI計画前ミーティングで、サプライヤーは今後のマイルストーンとそれに向けての進捗を示さなければならない。
  • ソリューションデモで、サプライヤーはそのPIの時間枠で何を達成したかを示さなければならない(それが動くシステムではなくドキュメントだとしても)。他の列車のデモにフィードバックを返す必要もある。
  • 検査と適応のワークショップへの参加は不可欠である。このようなサプライヤーの多くは学習サイクルが長いためである。サプライヤーは、この機会に、作業プロセスで発生した問題を話題にするべきである。

さらに、サプライヤーは計画を調整する柔軟性が低い可能性があり、その結果、他の列車がサプライヤーのニーズに合わせて柔軟に変化する必要が生じる。

(注:従来型の手法を使用しているサプライヤーと連携する方法の詳細は、『Mixing Agile and Waterfall Development』(アジャイル開発とウォーターフォール開発との混在)や『Technical Strategies for Agile and Waterfall Interoperability at Scale』(アジャイルとウォーターフォールを大きな規模で相互運用するための技術戦略)の指針ページを参照のこと。)

システム思考の適用と意思決定の非中央集権化

価値のストリーム全体を改善することが目的なので、サプライヤーの参加方法と範囲に関する全レベルでの意思決定にシステム思考を適用することが重要である。たとえばサプライヤーとの統合のリズムは、サプライヤーの作業手法に影響されるが、それだけでなく統合の処理コストにも左右される。同様に、意思決定をサプライヤーにまで非中央集権化できるかどうかは、ソリューションコンテキストによって異なる。たとえば、しっかりと確立された標準をインタフェースとしてソリューションと相互作用するサブシステムをサプライヤーが作成している場合は、サプライヤーにより多くの制御を任せることが容易である。しかし、インタフェースが他の複数のサプライヤーに影響を及ぼす独自仕様のものであり、スケールメリットがある場合には、より多くの交渉が必要になる。また、変化が激しい環境では、環境が安定している場合に比べて、絶えず協調と統合を行うことが重要になる。

さらに、状況によっては非常に具体的な設計要求を設定することが重要になるが、システム能力非機能要求が複数の列車にまたがる状況では、それがよくない結果をもたらす可能性がある。仕様を詳細に設定しすぎると、サプライヤーがNFRに投資しすぎるためである。

価値のストリームそれぞれがこの考え方を自身の経済的枠組みに組み入れ、それに応じてサプライヤーとの関係を管理することが大切である。

サプライヤーとの協調

サプライヤーとの協調はSAFeのすべてのレベルで発生する。最初は戦略テーマを共有することから始まる。たとえば「ホンダはサプライヤーに対して、今後数年でどのような種類のプロダクトを発表するつもりか、どのような市場を開拓するつもりかを知らせる」などである[4]。サプライヤーと企業との整合を保つには、何を構築するかの情報をソリューション開発者がサプライヤーと共有することが大切である。

また、価値のストリームがどのような経済的枠組みの中で動作しているかをサプライヤーに理解してもらうことも重要である。さらに、購入側がサプライヤーの経済的枠組みを理解して、互いに有益な関係を築けるようにすることも、同じ程度に重要である。「トヨタでは現地、現物、現場という用語によって、サプライヤーがどのように働いているかを役員自身が見に行って理解するというプラクティスを表している」[4]。

協調は、サプライヤーと一緒に要求を作成するときにも必要である。 ソリューション管理はサプライヤーと継続的に協調し、システム能力を記述してフィーチャーに分解する。 ソリューションアーキテクト/エンジニアリングは、サプライヤーの該当する人たちと協力して、ソリューションを設計する。「トヨタ北米研究開発センターのデザイン・イン室には、同じ部屋で同じプロジェクトに従事するサプライヤーがいる」[4]。

同じ協調を下のレベルでも行わなければならない。実際のソリューションを開発するのはアジャイルチームなので、サプライヤーのエンジニアとシステム構築者のエンジニアの間にコミュニケーション手段を設けて、アーキテクチャーおよび経済的枠組みの制約の中での最善の設計を共同で作成することが重要である。トヨタの仕入先ガイドラインには次のように書かれている。「クルマづくりは、サプライヤーとトヨタの共同作業です。両者があたかも一つの会社のように双方向コミュニケーションを緊密にとることが成功の鍵を握っています。お互いにオープンで率直な話し合いを行い、十分納得しながら推進していきたいと考えています」[2]。

早期に統合し品質を向上させるには、サプライヤーとARTとがインタフェースとテストとシミュレータを共有する必要がある。これらのインタフェースはすべて、情報が全員に行きわたるよう、ソリューションの意図の中に文書化しなければならない。

サプライヤーの選択

ソリューションが複雑になってくると、部品やコンポーネントを作成するサプライヤーから価値の高い統合システムを作成するサプライヤーへと、全般に市場が移動する。サプライヤーが職務著作物を提供する業界ですら、個人を雇用することからアジャイルチーム全体の委託、さらにはART全体の委託へと移行している。

そのため、適切なサプライヤーを選択することがさらに重要になってくる。これは長期的な価値の高い命題である。正しい選択をするには、エンジニアと購買から複数の人がサプライヤーの選択に加わる必要がある。リーン-アジャイルな組織は一般にサプライヤーの数が少ない(ただしそれぞれと長期的な関係を結ぶ)ことを好むため、これらの観点で見る方が、2つの組織が文化や手法の面で長期的に適合するかを検討しやすい。

サプライヤーの向上の支援

リーン-アジャイルなサプライヤーと一緒に仕事をする方が容易であり生産性も高い。企業のリズムにうまく一致し、必要に応じて計画を見直すことも上手だからである。さらに、サプライチェーンを改善せずに価値のストリームを改善しようとしても、最適な状態にはならない。この問題を解決するには、リーン-アジャイルな企業はサプライヤーと協力してサプライヤーのプロセスや結果を改善し、両方の会社の利益になるようにしなければならない。「他の自動車メーカーでは週の1日をサプライヤーの育成に充てているが、ホンダでは13週間を育成プログラムに充てている。…ホンダのベストプラクティスプログラムによって、サプライヤーの生産性が50%ほど、品質が30%も向上し、コストは7%低下した。これは完全に利他的に行っているわけではない。サプライヤーは削減できたコストの50%をホンダに分けることになっているからだ」[4]。

サプライヤーを検査と適応のワークショップやその他の容赦ない改善作業に招待したり、リーンやアジャイルに熟達したエンジニアをサプライヤーに送り込んでサプライヤーのプロセスを改善したりすることで、リードタイムやコストを大きく向上できる可能性がある。

アジャイルな契約

役に立つ効果的なサプライヤーとの関係を作り上げるには、互いの間の信頼環境を構築することが重要である。関係を規定する契約がまったく異なる事柄を想定している場合には、そのような信頼を構築するのは困難である。

従来の契約では、多くの場合、最適な結果は得られない。デミングは次のように述べている。「口に出されない値札を基に物やサービスを購入することには罠が潜んでいる。業界の実費精算方式のゲームで生き残るために、サプライヤーはほぼ確実に仕事を得られるよう、非常に低い価格で入札する。そしてその仕事を得る。顧客は作業の変更が不可欠だと気付く。サプライヤーは非常に親切だが、『残念ながら』この変更のおかげでコストが倍になることが判明したと言う」[1]。

このやり方は現在の市場ではよく見られるが、両者の経済的利益を最適化するものではない。その代わりに、リーン-アジャイルな購入者とサプライヤーは、協調して変更を受け入れ、両者の利益になるようにする。この関係は信頼の上に築かれる。この関係は、よりよい働き方をもたらすアジャイルな契約によって、徐々に構築することができる。これは新しいものではない。トヨタは次のように言っている。「関係を規定する契約は、あいまいで、一般的な記述と強制力のない目標から成り立っている」[3]。 [3].


さらに知りたい場合

[1] Deming, W. Edwards. Out of the Crisis. MIT Center for Advanced Educational Services, 1982.

[2] http://www.toyota-global.com/sustainability/society/partners/supplier_csr_en.pdf.

[3] Aoki, Katsuki and Thomas Taro Lennerfors. “New, Improved Keiretsu.” Harvard Business Review. September 2013.

[4] Liker, Jeffrey and Thomas Y. Choi. “Building Deep Supplier Relationships.” Harvard Business Review. December 2004.

Last update: 21 November 2015