SAFeのリーン-アジャイルの原則

作業のパフォーマンス自体が内的な報酬になっているように思える…このやる気は…他と同様に基本的なものかもしれない…

─ダニエル・ピンク, Drive(『モチベーション3.0』)

第8原則─ナレッジワーカーの内発的モチベーションを解き放つ

リーン-アジャイルなリーダーは、「ナレッジワーカーの管理」というのは矛盾した表現だ、という比較的新しい根本的な真実をふまえて行動する。ドラッカー[2]が指摘するように、「ナレッジワーカーとは、自分が行う仕事を上司よりもよく理解している人である」。そのような状況で、使命を達成するのに必要な作業を自分たちよりもずっとうまく定義できる人の技術的活動を、本気で管理または調整しようとする管理者がいるだろうか。

いるわけがない。その代わりに管理者ができるのは、ナレッジワーカーの内発的モチベーションを解き放つことである。その指針について、後の段落で説明する。

システム的視点を利用する

やる気についてさらに細かく掘り下げる前に、新しく理解された重要な点に言及しておきたい。それは、SAFeのリーン-アジャイルな原則自体もシステムであるという点だ。そして、このシステムの要素同士が協調して、能力を引き出す新しいパラダイムを作り上げる。ナレッジワーカーが、職務の境界を越えてやり取りをし、経済性を理解して意思決定を行い、ソリューションの効果について素早いフィードバックを得、継続的でインクリメンタルな学習と技能熟達に参加する、もっと一般的な言い方をすると生産性の高い充実したソリューション開発プロセスに参加する、というパラダイムである。これはあらゆるモチベーションの中でも特に強力なものである。

報酬の役割を理解する

多くの組織はまだ、人の潜在能力と個人のパフォーマンスについて、科学というよりも言い伝えに根差した…時代遅れの想定に基づいて動いている。短期的なインセンティブの計画や成果主義の構想は、通常はうまくいかず、害になることが多いという証拠が集まりつつあるにもかかわらず、相変わらず、そのようなプラクティスを追い続けている。[1]

ピンク[1]やドラッカー[2]らは、ナレッジワーカーへの報酬がやる気にどう影響するかについて、基本的な矛盾を指摘している。

  • 十分な対価を支払わなければやる気は向上しない。不十分な報酬はやる気をなくさせる大きな要因である。
  • しかし、あるポイントを過ぎると、金銭がやる気につながらなくなる。これは知的自由と自己実現のポイントである。ここでナレッジワーカーの心は自由になり、金銭ではなく仕事に集中できるようになる。
  • このポイントを過ぎると、インセンティブの要素を追加しても、それはまたやる気をなくす要因になってしまう。知的誠実さに対する侮辱になったり、ナレッジワーカーが仕事ではなく金銭に集中する原因になったりしかねない。

リーン-アジャイルなリーダーは、ナレッジワーカーの観念作用や革新や職場への深い愛着が、金銭によって、あるいは逆に脅しや恐怖によって動機付けできないことを理解している。このような、インセンティブによる報酬(個々のMBO(目標による管理)として具体化されることが多い)は、内部での競争を引き起こし、大きな目標を達成するために必要な協力を破壊する可能性がある。企業はその競争の敗者となる。

自律性に目的と使命と最低限の制約を与える

『Drive』[1]では、ナレッジワーカーには自律性(自らを律し自分の生活を自分で管理できる能力)が必要であることも強調している。自律性を重んじ、同時にそれを企業の大きな目的に結び付けておくことは、リーダーの重要な責務である。

管理者やワーカーは、自律を促す要因は大きな目標というコンテキストの中になければならないことも理解している。そのために、リーダーは、ある程度の大きな目標(企業の目的と労働者の日々の作業とを結ぶもの)を規定しなければならない。

システムを構築するときには、ナレッジワーカーはチームの一員として参加する。優秀なチームの一員になることも、やる気の重要な要因である。リーダーは、以下のようにして、チームが最善を尽くすよう鼓舞することができる[4]。

  • 使命と、全体の目的と戦略的方向性(しっかりとしたビジョン)とを与える。
  • 具体的な作業やプロジェクトの計画は、少なくする、最低限にする、または、なくす。
  • やりがいのある要求を与え、チームがその要求を満たす方法については制約を最低限にする。

相互に影響しあう環境を作成する

効果的にリーダーの役割を果たすには、ワーカーの言うことに耳を傾け、彼らに敬意を払わなければならない」[2]。それを相互に影響しあう環境[4]の中で行う。リーダーは、そのような環境を作成するために、励ましながら厳しいフィードバックを返したり、積極的に弱い立場に立ったり、次のような事柄を推奨したりする。

  • 必要に応じて異議を唱えること
  • 自分の信じる立場を主張すること
  • ニーズを明確にし、それを実現できるよう努力すること
  • 管理者や同僚と協力して問題を解決すること
  • 交渉、譲歩、同意、確約すること

今日のシステム構築者は、ワーカーの方が賢明であり、管理者にはとうてい無理なところまでローカルのコンテキストを把握しているという、新しい時代を生きている。この手つかずの潜在能力を解放することは、作業を行う人たちの生活を改善し、顧客や企業を含む全体にとってよりよい成果を上げるための、重要な要因となる。


さらに知りたい場合

[1] Pink, Daniel.Drive:The Surprising Truth About What Motivates Us.Riverhead Books, 2011. (邦訳:モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか、講談社、2015)

[2] Drucker, Peter F. The Essential Drucker.Harper-Collins, 2001. (プロフェッショナルの条件、イノベーターの条件、チェンジ・リーダーの条件、ダイヤモンド社、2000)

[3] Bradford, David L. and Allen Cohen.Managing for Excellence:The Leadership Guide to Developing High Performance in Contemporary Organizations.John Wiley and Sons, 1997.

[4] Takeuchi, Horokata and Ikurijo Nonak.The new new product development game.Harvard Business Review.January 1986.

Last update:11 May 2015